きっちんぷらす
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青森発「有機にんじん」さまざまな「いのち」たちと共生しながら育まれる“強い”おいしさ

生でも安心、皮ごと食べられる「有機にんじん」

くっきりとしたオレンジ色の引き締まったボディ。厳しい自然界で、たくましく育った有機にんじんは色濃く、「にんじんそのもの」の味と香りが評判です。有機JASで認められている農薬さえも使わないにんじん畑は、まさに「自然のままの大地」。その土からの栄養をじっくり取り入れ、太陽の光、恵みの雨、そして、栽培スタッフの愛情をたっぷり注がれ、ゆっくりと時間をかけて生長するので、独特の“甘み”があります。その甘さは寒くなるにつれ増すそうで、冬を越した“奥深い甘み”や夏の“すっきりした甘み”など、季節ごとの味の違いも楽しめる表情豊かなにんじんです。

有機にんじん
有機にんじん[葉なし(通常品)]
1kg(5本前後)700円(税込)
有機にんじんを使ったレシピはこちら


大自然に抱かれた雄大な農地で“放牧”される野菜たち。

総面積約85ha(ヘクタール)という広大な土地で、サラブレッドの繁殖・育成・調教から養鶏、有機野菜の栽培までを手がける東北牧場。本州最北端に位置する青森県は真夏でも気温が低く、湿気も少ないので、害虫の発生率が低く、野菜の栽培には適している、と言われています。とはいえ、年間60種類以上もの野菜を輪作栽培する畑。農薬などを使わずにどうやって管理しているのかと尋ねると、「雑草やいろいろな生き物たちに助けてもらってるんです」と、ほ場担当の市ノ渡さん。春から初夏にかけてヒバリが巣を作り、アゲハチョウが卵を産み、リス、キツネ、カモシカなどの動物がやって来ますが、作業中に現れたとしても追い払わないそうです。害虫は、野鳥たちがついばんでいき、ネズミはカラスやネコが退治してくれる。雑草は根を広く張ったり、野菜の生長や光合成に影響を及ぼすものだけを抜き取って、それ以外の雑草は、日除けや風除けとなり野菜の生長を守ってくれる役目も果たすので、自然のままに残しておきます。このように生態系のバランスのとれた畑では、農薬や化学肥料に頼らなくても、病害虫の深刻な被害を受けないのです。
牧場ではサラブレッドの育成も行っているので、毎朝、馬房から汚れた敷き藁が出ます。それを完全に発酵させたものに養鶏場から出た鶏糞、周辺の雑木林から採取した腐葉土、刈り取った雑草を混ぜ込んで作ったオリジナルたい肥を畑に使用しています。
青森の冷涼な気候、サラブレッドの牧場という恵まれた環境の特性を活かしながら有機農業を実現している東北牧場。2004年に「有機農産物JAS認定」を取得しましたが、有機JASで認められた薬剤さえも使用していません。また、周囲を雑木林で隔離されているので、敷地外からの農薬などが飛来する心配もないのです。“自然のままの自然”がいっぱいの畑で育つにんじんは、自然の厳しさも体験しながらたくましく育つので、色も濃く、シャキッとしていて“強い”印象を受けます。

夏にんじん用畑、秋にんじん用畑合わせて60a(アール)もあるという有機にんじん畑。
夏にんじん用畑、秋にんじん用畑合わせて
60a(アール)もあるという有機にんじん畑。

機械は使わず、1本1本収穫する。
機械は使わず、1本1本収穫する。「大変だけど、自分の手で穫って出来映えを確かめてからお客さんのもとへ送りたいんです」と市ノ渡さん。

右が馬房から出したばかりの敷き藁、左が1年後の敷き藁。
馬のたい肥は水分が少なく発酵が容易であるため、有機栽培に適している、と言われる。右が馬房から出したばかりの敷き藁、左が1年後の敷き藁。3年間寝かせて完全に熟成させてから使用する。


収穫後、土を落とすために水洗いするのも1本1本手作業。
収穫後、土を落とすために水洗いするのも1本1本手作業。少し離れた場所にいてもにんじんの香りが漂ってくるほどだ。その風味の強さを実感、「お取り寄せ」ファンが多いのもうなづける。

養鶏場の鶏はエサとして粉砕した有機野菜のくずを食べ、その鶏糞を主に追肥用として利用する。
養鶏場の鶏はエサとして粉砕した有機野菜のくずを食べ、その鶏糞を主に追肥用として利用する。安全なエサを食べている鶏の糞だから安全な肥料ができるのだ。

栽培・収穫・梱包・発送まで、すべて牧場スタッフの手で行われ、全国各地の“家族”のもとへ届けられる。
栽培・収穫・梱包・発送まで、すべて牧場スタッフの手で行われ、全国各地の“家族”のもとへ届けられる。

自然の「いのち」をいただく感謝の気持ちが生み出した循環型有機農法

有機野菜の栽培を始めた当初は、牧場のスタッフとその家族のためで販売目的ではありませんでした。しかし、牧場を訪れた人や、友人たちに「おすそわけ」しているうちに、そのおいしさが評判となり「ぜひ販売してほしい」と懇願され、15年ほど前から一般向けの販売を開始。農薬を使わないので、ある年はナスが育たず出荷できなかったこともあるとか。しかし、そこは「お客様に正直に“できませんでした”と謝ります」と話すのは代表の九十九さん。出荷できなかった野菜たちは捨てるのではなく、たい肥に混ぜたりして再利用。野菜の葉くずや、敷地内にある社員食堂から出る野菜くずも畑へ還したり、馬や鶏のエサとして使います。安全な方法で作った野菜を食べる馬のたい肥は安全、安全な方法で作った野菜を食べる鶏が産む卵も、その糞も安全。牧場の生産物はすべて牧場内で循環しているのです。食べ物は口に入って体を作るもの、だからこそ、薬に頼らず「自然のもの」で代用する。「食べること」は一生続く「いのちの活動」であり、“安心・安全な「食」を継続して提供することが東北牧場の使命”という創業当初からの理念は揺らぐことなく、ここで営まれる「いのち」のサイクルの軸となっています。
有機野菜作りの魅力を伺うと「収穫の時、つやつやしてイキイキした元気な野菜を見ると、自分まで励まされるんです。元気な顔見て元気をもらえる“子ども”みたいな存在ですね」と市ノ渡さんは柔らかな表情で答えてくれました。野菜は大切な“子ども”のような生命だからこそ、農薬を使わず、自然のままでたくましく育てたい。そして、お客様は大切な“家族”だからこそ、安全で安心なものを食べてほしい。社員教育などは特にしていないそうですが、生命を大切にする気持ちがスタッフの心にまで浸透していると感じました。


動物も草も、天候さえも「スタッフ」。支え合って、共生する“愛”いっぱいの牧場。

1週間の作業スケジュールは、天気予報との“ミーティング”から始まります。東北牧場の有機野菜は露地栽培が基本なので、雨が降りそうな日には鶏のエサ作りなど、室内でできる作業を予定して進めるそうです。毎朝6時30分には畑に“出勤”し、日没まで作業する、という市ノ渡さん。これだけ広い畑、いったい何人で担当しているんですか、と聞くと「3人です」という驚きの返答。牧場全体ではスタッフは18名いて、繁忙期はお互いに助け合っているそうです。その18名のスタッフは全員、役職や肩書きを持っていません。その理由を九十九さんに聞くと、「養鶏、馬の育成、畑作業、全部大事な仕事です。どれも平等。いろんな仕事があって、やってくれてるスタッフがいて、この牧場が経営できて、お客様に安全なものを届けられるんですから。スタッフはもちろん、あらゆる生命に感謝感謝です」とのこと。組織上、「代表」と役名がついている九十九さんですが、彼女の意見にスタッフから“物言い”がつくこともしばしばあるそうです。スタッフ同士がよりよいもの作りのためにざっくばらんに話せる環境も整っていることを取材中も空気で感じました。
スタッフの採用基準は?と尋ねると九十九さんは「ハートです」と即答。大自然の中で農作業、と聞くと「癒し」を連想されることも多いですが、実際の仕事は自然の「厳しさ」、青森の地ならではの「寒さ」に耐えながら“いのち”を育てていかなければならないきつい仕事。誰かが見ていなくても野菜のためにコツコツやってくれる、本当に土を触っているのが好きな“信じられるハート”を持っている人を採用するそうです。2年前にその採用試験を突破した市ノ渡さん、自宅でも野菜作りを楽しんでいるとのことで、「勤務先でも自宅でも、起きてる間はずっと畑のことを考えています」と朗らかに笑っていました。
太陽の光をたくさん浴び、雨風に耐え、澄んだ空気に包まれて、農薬とは無縁の豊かな大地からは自然の栄養を、そしてスタッフからは“愛情”という肥料をたっぷり注がれる。厳しくもやさしい環境の中で、じっくりと時間をかけ、たくましく育つ東北牧場の有機にんじんは“にんじん”であることをとても幸せに思っている表情をしているような気がします。

牧場では十数匹のネコが飼われている。畑にやってくるヒメネズミを退治してくれる、頼れるスタッフだ。
牧場では十数匹のネコが飼われている。畑にやってくるヒメネズミを退治してくれる、頼れるスタッフだ。

寒くなるとにんじんに覆いかぶさるくらいに生えるハコベ。
寒くなるとにんじんに覆いかぶさるくらいに生えるハコベ。ふわふわのクッションのようになり、雪や寒さからにんじんの表面が凍傷になるのを防いでくれる、いわば“ボディガード”的存在。

“信じられるハート”を持つスタッフたちの拠点となる東北牧場事務所。
“信じられるハート”を持つスタッフたちの拠点となる東北牧場事務所。広大な自然の中で、彼らが“楽しんで”仕事をしている様子はブログやツイッターからも伝わってくる。


※掲載の内容は、2010年12月現在のものです。