きっちんぷらす
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【高知発】一本釣りうるめいわしー:一本釣りの活き〆だからウロコも瞳もキラッキラ!

鮮度が違うから味が違う「一本釣りうるめいわし」

魚へんに弱いと書く「鰯」は文字どおり表皮が薄弱で鮮度が落ちやすく、うるめいわしは特に繊細。網で水揚げすると魚同士がこすれ合って熱を持ち、身が焼けて瞳もたちまち濁ってしまうため、丸干しにされることがほとんどです。土佐市宇佐町の伝統漁法「一本釣り」ならば、魚体を痛めず鮮度そのままに出荷できると、所さんらは独自の活き〆方法を考案。現在は地元のみならず、全国の寿司店や量販店などへ広く流通しています。

【高知発】一本釣りうるめいわし

うるめ鮮魚1kg(10〜15尾)
1,100円(税・送料別)

「うるめいわし」を使ったレシピはこちら


当たり前じゃないこの漁法 もっと注目されるべき

転勤族の家庭に生まれ育った所さんは、大学から上京し、就職と結婚をしました。6年間働いたのち、奥さまの故郷である宇佐町へ引越しすることを決意。景色と土地柄に魅了されて以来、いつかは移住したいと思っていたそうです。家業の干物店で働きながら、地元商工会の青年部と交流を深め、この町を盛り立てる何かを探し求めていた時、一本釣りのうるめいわしと出会いました。通常、網で水揚げするうるめいわしを、この町の漁師は一本釣りすると知り、「これしかない」と確信。当たり前じゃないこの漁法とうるめいわしをブランド化しようと、東奔西走する日々がスタートしたのです。

うるめいわしの旬は夏 漁のサイクルをまるっと変更

うるめいわしは夏に旬を迎え、丸々と太って脂がのります。ところが漁に出るのは、今まで干物シーズンの1〜3月のみでした。ウロコを痛めない一本釣りでも、さすがに真夏の船上では身が焼け、すぐに鮮度が落ちてしまいます。そのうえ丸干しには脂がのっていない原料と真冬の寒風が欠かせないこともあり、夏の漁は避けられていました。所さんは、真夏のおいしい時期に刺身で食べる方法はないかと、プロたちの意見を仰ぐことに。漁師の皆さんは思いもよらない発想に戸惑いを見せながらも熱意に心を動かされ、意見交換に加わりました。結果、釣った先から氷水に投入し、間髪入れず〆てしまうという方法が編み出されたのです。

うるめいわしの一本釣りは、正確には「多鈎釣り(たこうつり)」と呼び、独自の仕掛けを使う。取材にご協力いただいた久保英志さんは、この道37年のプロフェッショナル。
うるめいわしの一本釣りは、正確には「多鈎釣り(たこうつり)」と呼び、独自の仕掛けを使う。取材にご協力いただいた久保英志さんは、この道37年のプロフェッショナル。

仕掛けを手繰ると、久保さん考案の針外し機に当たってうるめいわしの口が切れ、クーラーボックスへと入る。魚体をばたつかせるたびにウロコがハラハラと剥がれ、まるで流れ星のよう。その儚さを目の当たりにした。 仕掛けを手繰ると、久保さん考案の針外し機に当たってうるめいわしの口が切れ、クーラーボックスへと入る。魚体をばたつかせるたびにウロコがハラハラと剥がれ、まるで流れ星のよう。その儚さを目の当たりにした。


港に戻った久保さんの船。その他に4人の漁師がうるめいわしを専門に釣っている。水揚げされたら重さを測り、宇佐もん工房に引き取られる。
港に戻った久保さんの船。その他に4人の漁師がうるめいわしを専門に釣っている。水揚げされたら重さを測り、宇佐もん工房に引き取られる。

港の市場から徒歩3分の距離にある宇佐もん工房へ。釣れた直後から工房までたっぷりの氷水で活き〆されたまま冷蔵車で移動し、鮮魚は即出荷の準備に入る。
港の市場から徒歩3分の距離にある宇佐もん工房へ。釣れた直後から工房までたっぷりの氷水で活き〆されたまま冷蔵車で移動し、鮮魚は即出荷の準備に入る。

ブランド化に向けて次のステージへ

鮮度を確保する方法が見つかり、所さんらはブランド化に向けて本格始動。地元の商工会や漁協、そして行政の賛同を得て、飲食店を巻き込んだイベントなどを開催しました。知名度が少しずつ上がっていき、活動開始から3年目で法人化へ踏み切ることに。今までは一過性のイベントでしたが、今後は利益を生み出すことが大前提です。各方面のバックアップを受けて、ようやく企業組合「宇佐もん工房」として歩み始めました。加工場の完成で、業務用商品や小売商品の製造が可能となり、売り上げも順調に推移。6次産業の成功モデルとして、平成23年に高知県地場産業賞を受賞しています。

目が釘付けになる 華麗な仕掛けさばき

入梅間もない頃、うるめいわしの一本釣りと活き〆される様子を見届けようと、この道37年の久保英志さんの船に同乗させていただきました。出航は夜中の2時。点滅する灯台の明かりと漁船の灯火以外、目を凝らしても何も見えません。約2時間船を走らせ、室戸岬と足摺岬を線で結ぶ、土佐湾の入り口辺りのポイントに到着。東の空が白んできた頃、道糸に80〜100本ほどの疑似餌(ぎじえ)を付けた仕掛けを海底に落としました。アタリがあったらしばらく待ち、十分いわしが掛かったところで引き上げます。約1mの針間を正確に捉え、リズミカルに手繰り寄せる技は華麗そのものでした。


宇佐もん工房へ信頼を寄せ うるめいわし漁に一本化

久保さんが考案した針外し機に針が当たると、うるめいわしは氷水を張ったクーラーボックスへまっしぐら。しばらくバタついてピタリと動きを止め、ウロコも瞳もキラキラのまま活き〆が完了します。2時間ほどでクーラーボックス2個がいっぱいになり、この日の漁獲は約75kg。再び2時間かけて宇佐港へ戻り、市場に託してこの日の仕事は終了です。夏はカツオやカンパチを釣り、うるめいわしの一本釣りは冬のみだった久保さんですが、所さんらの熱心な働きかけと工房の設立を受け、うるめいわし漁に一本化。今では宇佐もん工房を心から信頼し、今後の展開にも期待しているそうです。

数多くのファンを作って 「三方良し」の体制へ

現在、一本釣りうるめいわしを生食で提供する店は高知市・土佐市内で40店舗ほど。その中の一つ「宇佐もんや」さんで一番人気の定食をご馳走になりました。刺身・漬け丼・フライ・酢の物・つみれ汁のフルコース。どれも秀逸ですが、特に刺身の上品な脂と旨味に思わず感嘆の声がもれました。「この素晴らしさをPRして、全国にファンを作るのが私の役目。漁師さん・地元の人々・そして飲食店さんや消費者の皆様が喜ぶ体制作りをしていきます」と熱く語る所さん。今日もワイシャツとスラックス姿に長靴といういでたちで、市場と工房を忙しく走り回っていることでしょう。

温度と衛生管理を徹底した加工場では、業務用のフィレやすり身、オイルサーディンや漬け丼用のレトルトなどの小売商品を製造。
温度と衛生管理を徹底した加工場では、業務用のフィレやすり身、オイルサーディンや漬け丼用のレトルトなどの小売商品を製造。

宇佐もん工房直営の「宇佐もんや」。水揚げがあった時のみ販売される刺身入りの「宇佐もんや定食」は、うるめいわしの魅力を余すところなく堪能できる。真いわしとは一味違う上品な旨味が印象的だった。
宇佐もん工房直営の「宇佐もんや」。水揚げがあった時のみ販売される刺身入りの「宇佐もんや定食」は、うるめいわしの魅力を余すところなく堪能できる。真いわしとは一味違う上品な旨味が印象的だった。


※掲載の内容は、2016年6月現在のものです。