【長野発】阿智ファームのズッキーニ:育てる品種は30以上。天空の農園はズッキーニ・パラダイス。
日本に流通しているズッキーニは棒状で濃い緑色が一般的ですが、本場イタリアではカタチも色も様々。長野県南部に広がる盆地「伊那谷」にある阿智ファームでは、イタリアから種を取り寄せ、32種類を無農薬・無化学肥料で栽培しています。大きさや品種を細かく指定することができ、常にフレッシュな状態で届けられるため、イタリアンはもちろん和の料理人からも注目を集めています。
ズッキーニ詰め合わせ 2,500円〜
※消費税別・送料は配送地域によって異なります。
東京・新宿生まれで、農業とは無縁の環境で育った品川さん。教師を志して名古屋の大学に進学しましたが、教育現場の実情を知るうちに、やりたいことを見つめ直しました。考え抜いた結果、大自然という教室で子どもたちに食の大切さを伝えられる農業を選択。卒業後は有機農業が盛んな埼玉県小川町の農家で2年間の研修に入り、1年目を過ぎた頃に再び転機が訪れました。愛知県から長野県阿智村に移住し、すでに有機農家として独立していた大学時代の親友の元を訪れ、伊那谷の地と運命的な出会いを遂げたのです。移住するなら今しかないと研修は1年で切り上げ、友人との再会からたった40日間で阿智村民となりました。
幼い頃から両親と一緒に長野を訪れ、山に魅せられていた品川さんは、南アルプスが一望できる伊那谷の風景に心を奪われました。酷暑に見舞われる埼玉と違い、標高700メートルを超える阿智村の北青見平は、夏は冷涼で冬は雪が少なく、日照時間も長いことから作物の栽培に最適です。赤土が多い阿智村にあって、この一帯は「黒ボク」と呼ばれる土が堆積し、水はけが良く有機質も豊富。阿智村もIターン就農を歓迎しており、圃場(ほじょう)と住宅をセットで斡旋してくれるシステムも決め手となりました。先輩ファーマーのサポートもあって、スムーズに土地の生活へ溶け込めたそうです。
梅雨入りしたばかりの空のもと、雲海から顔をのぞかせた南アルプス。この景色に魅せられた品川さんは、日々移ろう山の表情に癒されているという。
土に必要な肥料を入れて耕し、種をまいてから約60日間で収穫できる。1つの苗から収穫するのは1ヵ月半と決めて安定した品質で出荷。最盛期は月20,000本を収穫する。
有機質が豊富な黒ボク土に足りない成分だけ補う。完熟の堆肥や、米農家から譲り受けたワラを発酵させたものなど、自然由来のものしか使わない。
一番花となる雄花が開花。この下に咲く雌花が受粉して実を結ぶ。苗が倒れると下の葉が枯れてしまうので、ひとつひとつ手で起し、固定する作業が続く。
2009年に開園してからの2年間は、有機野菜の詰め合わせセットを宅配していましたが、同じような農園は全国に数え切れないほどあります。そのうちの1軒で終わりたくないと考えた品川さんはズッキーニ1種類に絞り込みました。40年前から日本で栽培されていますが、作り手も使い手も良さを出し切れていないことに目をつけ、ズッキーニのスペシャリストになろうと決意。イタリアから種を仕入れて15種類からはじめ、現在では32種類を栽培しています。色も形も様々で、飲食店などに直接出向いて、食べ方の提案をしながら販路を拡大中。「阿智ファームの品川が作るズッキーニは最高だね!」と言われる日本一のズッキーニ農家を目指しています。
有機栽培というと、病気や虫との戦いを想像しますが、品川さんはさほど苦労していない様子。その理由は良い土と良い肥料に恵まれているからだと言います。阿智村には畜産農家が8軒あり、そこから集めたフンを堆肥センターで時間をかけて完熟させ、各農家へ出荷。中途半端な熟成では臭気を発し、病気や虫を呼び寄せるそうですが、阿智ファームの圃場から臭いは全く感じませんでした。近所の米農家から譲り受けたワラを発酵させて土にすき込んだり、籾殻を燻製させた自作の燻炭を入れるなど、足りないものだけを補って過保護にしません。土と対話することが、おいしくて安全なズッキーニを作り出す秘訣のようです。
新潟から福岡まで販路を広げた品川さん。築いた信頼関係をより深めるために、シェフの要望には極力応えるようにしています。長さ8cmのズッキーニを丸ごと前菜に使いたいという要望があれば、成長のタイミングを見計らって8cmで出荷。シェフにヒアリングし、生食向きや火入れ向きなど、用途に合った品種のアドバイスもしています。鮮度にもとことんこだわり、午前中に収穫して夕方出荷するまでのわずかな時間もコンテナ冷蔵庫で保存。最高の状態でしか旅立たせないというポリシーが、顧客満足につながっているのでしょう。これまで品質に関するクレームはゼロという実績からも、その徹底ぶりがうかがえます。
昨年、全国放送のテレビ番組でズッキーニ名人として紹介され、知名度も急上昇中の阿智ファーム。品川さんの後にIターンで就農した世帯も5軒加わりましたが、もともと住んでいる人たちの農業離れ、地元離れは進むばかりです。そこでスタートさせたのが「阿智ファームライブ」。県内外のバンドを呼び寄せてライブを開催し、東京や名古屋へ出なくても楽しめる場を提供しながら、農業の魅力を伝えています。「ライブに来る子たちと、伝えたい世代がマッチしているんです。出会いをきっかけにして農業に興味を持ってもらえたらいいなと。この思い、あまり公表していないんですよ(笑)」と、やや照れながら語ってくれました。かつて夢見た学校教師とはフィールドが違いますが、南アルプスを望むこの天空の農園で「伝えたい」という思いは確実に実を結んでいるようです。
実を結んだズッキーニ。濃い緑色の他、黄色やストライプ、形も球体やUFO型などバラエティ豊富。サラダ向き、オーブン料理向きなど、それぞれ味わいや食感にも個性がある。
今年の4月18日に開催した「阿智ファームライブVol.1」。チケットは完売して大盛況だったよう。7月18日にはVol.2、8月8日にはVol.3を開催。南信州の名物ライブになりそうだ。
※掲載の内容は、2015年6月現在のものです。