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【徳島発】酒井農園のれんこん:食べれば分かる。れんこんを育む土と愛情

火入れで食感と味わい七変化:酒井農園のれんこん

徳島県は茨城県に次ぐれんこんの一大産地。中でも鳴門市の大津町は、良質なれんこんを産出することで有名です。この地でれんこん一筋40年以上のキャリアを誇る酒井農園では、徳島を代表する品種「備中」をメインに3種のれんこんを手掛け、安全性とおいしさを追求して独自の栽培方法をあみだしました。丹誠込めて作られたれんこんは、板前やバイヤーなどの目利きから、れんこん嫌いの子供たちまでも魅了するおいしさです。

【徳島発】酒井農園のれんこん 1kg(2L・Lサイズ1〜2本) 3,000円
2kg(2L・Lサイズ2〜3本) 5,000円
※消費税・送料・代引き手数料別

「れんこん」を使ったレシピはこちら


災い転じて、名産地

鳴門市の大津町は旧吉野川の河口に近いため、山々から運ばれた土砂が肥沃な大地を作り上げています。瀬戸内の温暖な気候を利用して、かつては稲作や、きゅうりやトマトなどの園芸作物が盛んに栽培されていました。ところが1946年に南海地震がおきると地盤沈下が発生。この一帯は海に近いため、塩害によって稲作が困難になりました。多くの農家が塩害に強いれんこんへと転作したところ、むしろ好適地でメイン作物に成長。酒井農園も理さんの代になって1963年より園芸作物かられんこんに転作し、1968年からは1本に絞り込んで事業化しました。長男の建記さんが後継者として従事したことをきっかけに法人化し、今では4ヘクタールの圃場(ほじょう)から、年間70トンものれんこんを出荷しています。

一年を通じてリレー形式で収穫

酒井農園では7月頃から極早生種の「オオジロ」、早生種の「ロータス」、9月頃から翌年春まで徳島を代表する「備中(びっちゅう)」と、3種のれんこんをリレー形式で収穫。成長期の6月前後を除き、ほぼ一年を通じて出荷しています。メインの備中は明治以降に導入された中国種で、節の間が長く、乳白色の艶やかな肌が特長です。澱粉質が多く、オオジロやロータスの糖度が4から5度のところ、備中は8度。京阪神の料亭からは「備中で」と名指しのオーダーも多いそうです。おせち需要と旬が重なるため、クリスマスムードが消えた直後から、年末ギリギリまでが出荷のピーク。収穫したれんこんは専用の冷蔵庫で低温貯蔵し、3日間で800ケースほどを旅立たせます。

緑豊かな初夏のれんこん圃場。オオジロとロータスは白い花、備中は薄桃色の可憐な花をつける。早朝に咲く瞬間を狙って、カメラを携えた人々が多数訪れるという。
緑豊かな初夏のれんこん圃場。オオジロとロータスは白い花、備中は薄桃色の可憐な花をつける。早朝に咲く瞬間を狙って、カメラを携えた人々が多数訪れるという。

油圧ショベルで表面の土を除き、締まった土に熊手を入れて手掘り。3〜4節を傷つけずに掘り起こすには、熟練の技を要する。 油圧ショベルで表面の土を除き、締まった土に熊手を入れて手掘り。3〜4節を傷つけずに掘り起こすには、熟練の技を要する。


土がついたれんこんを高圧洗浄機にかけた後、さらに手作業で磨き上げる。低温を好むれんこんのために、手がかじかむような冷たい水を使った作業が続く。
土がついたれんこんを高圧洗浄機にかけた後、さらに手作業で磨き上げる。低温を好むれんこんのために、手がかじかむような冷たい水を使った作業が続く。

配送途中に乾燥したり傷がつかないよう、ひたひたに潤した保水シートでくるみ、木でできた緩衝材や、発泡スチロールで保護して発送。
配送途中に乾燥したり傷がつかないよう、ひたひたに潤した保水シートでくるみ、木でできた緩衝材や、発泡スチロールで保護して発送。

地球にやさしい農業は人間にもやさしい

順調に出荷量を増やしてきた酒井農園ですが、1993年に転機を迎えました。その年、徳島は悪天候に見まわれ、収穫量が激減。すると安価な中国産が市場に出回り、国産の地位をおびやかし始めたのです。危機感を抱いた理さんは差別化の道を選択。「土壌は美しいまま次世代へと残すもの」という思いもあり、完全無農薬・無化学肥料の栽培に着手しました。ところが農薬を止めた途端、何千本ものれんこんにアブラムシがびっしり。黙々と手で取り除く姿を見た周囲の人達からは変わりモノ扱いされましたが、「これでやっていくんだ」と覚悟を決め、突き進みました。試行錯誤の結果、100%天然由来の有機肥料と80%減農薬の特別栽培に行き着き、一部の畑は有機JAS認定を取得。2013年には全国優良経営体・農林水産省経営局長賞も受賞し、大津町を代表するれんこん農家へと成長しました。

引き締まった土が大津のれんこんを旨くする

れんこんの収穫というと、水を張った圃場に放水ポンプを入れ、周りの土を勢いよく飛ばすシーンを思い浮かべますが、鳴門では全く異なります。古くは陶器の釉薬(ゆうやく)にも使われていた粒子の細かい粘土質のため、放水ポンプではびくともしません。水を抜いて干上がったところを専用の油圧ショベルで表面の土を取り除き、収穫は熊手を使っての手作業。地表の芽を見て方向を予測し、3〜4節が連なった状態で掘り起こします。徳島のれんこんは収穫後、まわりの土を落として出荷するので、傷がつけば明らかに。陶器を扱うかのように慎重にならざるをえません。腰を曲げて硬く締まった土に熊手を入れるのは過酷な作業ですが、この粘土質こそ春まで品質を保つ天然の貯蔵庫。窮屈な環境がカモシカの脚のようにスラリとした形状に整え、凝縮された旨味ある大津のれんこんを作り上げるのです。


「もったいない」から生まれたれんこんパウダー

食用として出荷するれんこんは3〜4節の範囲で、前後は処分します。その度にもったいないと思っていた建記さんは、乾燥してパウダーにすることを考案。6次産業化の認定を受け、乾燥用の機械を導入しました。24時間乾燥させた後、小麦粉の粒子と同等に細かく粉砕するのでサラッサラ。皮をはじめ、漢方では薬膳効果が高いとされる節の部分も全て使います。繊維質が多く、粘りのもとである「ムチン」は胃壁の保護や滋養強壮効果も期待され、最近では抗アレルギー性があるという研究結果が発表されました。パウダー状なので料理やパン作りに取り入れやすく、小麦アレルギーを持つお子様にも安心して使えると、自然食品店などで人気を集めています。

届けたいのはおいしさと安心・安全

酒井農園では様々なレシピを考案し、Facebookや商品同封のしおりを通じて消費者にリリースしています。中でも建記さんのおすすめはシンプルなオイルソテー。いただいてみると、味の奥深さに驚きました。土壌の豊富なミネラル分のせいか、塩無しでも一品料理として成立します。サッと焼くとシャキシャキ、じっくり炊くとねっとりとした食感。すり下ろしてれんこんパウダーを混ぜて蒸し上げれば、料亭仕込みの“しんじょう”のようです。「手間暇かかるから価格は少し高め。それを納得して求める方がいる限り、安心・安全でうまいれんこんを作り続けたいね。れんこん嫌いの子がおいしいと言っています、なんて聞くとうれしくって」と理さんと建記さん。晩秋の圃場で西日に照らされながら笑顔で語る2人の姿が、「鳴門」「れんこん」と聞いて思い起こすワンシーンになりました。

「もったいない」という思いから生まれたれんこんパウダー(1,500円〈税別〉)。花粉症への効能が発表されて以来、注目を集めている。れんこん餅作りや汁物のとろみづけなどにも最適。
「もったいない」という思いから生まれたれんこんパウダー(1,500円〈税別〉)。花粉症への効能が発表されて以来、注目を集めている。れんこん餅作りや汁物のとろみづけなどにも最適。

「蓮の鳴門蒸し」と題してれんこん饅頭を筆者が創作。れんこんパウダーを入れれば卵白なしでもつながり、もっちもち。同じく鳴門名産のワカメすり流しを餡にすれば、相性の良いことこの上ない。
「蓮の鳴門蒸し」と題してれんこん饅頭を筆者が創作。れんこんパウダーを入れれば卵白なしでもつながり、もっちもち。同じく鳴門名産のワカメすり流しを餡にすれば、相性の良いことこの上ない。


※掲載の内容は、2014年11月現在のものです。