【鹿児島発】オクラ 南薩摩の大自然が育んだパッキパキ!の新鮮オクラをお届け。鹿児島でも有数の観光地、指宿。ここに、“魅力を伝えられる農業のカタチ”を探求し続けている農家があります。新鮮さにこだわり、ユニークな取り組みを通して販路を拡大するアグリスタイルの湯ノ口さんにお話を伺いました。
暖かな日光をいっぱいに浴び、育てられたオクラ。ちぎりたての実は手で折ると「パキッ!」と音を立てて中のタネがはじけ飛ぶほど“元気”です。そんな新鮮なオクラを「収穫したその日のうちに出荷する」のがアグリスタイルのポリシー。その品質の良さは口コミで広がり、素材にこだわるイタリアンやフレンチレストラン、ホテル、料亭などで広く利用されています。
農作物の栽培に適した温暖な気候で、オクラやソラマメの生産量日本一を誇る指宿市。実家が兼業農家だった湯ノ口さんは大学卒業後、鹿児島市で3年半の営業マン生活を経験したのち、地元に戻って就農したUターン組です。しかし、最初から農業をやるつもりはなく、むしろ、若い頃は「農業なんて大嫌いだった」と話します。そんな湯ノ口さんを農業の道へ向かわせたのは、転職を考え始めた頃に頭をよぎった「ふるさと・指宿」のこと。そして、「農業を通じて経営に挑戦してみたい」という思いでした。
就農から15年、今や県内だけでなく福岡、関西、関東方面まで取引先を広げるアグリスタイルのオクラ。畑には除草剤を使用せず、農薬も通常の半分以下での栽培を行なっています。これはご自身のお子さんがアトピーで、安心して食べさせられる野菜を作りたいと強く思ったことがきっかけでした。そして、植え付けから収穫、出荷まで、ほとんどが手作業。オクラの最盛期には1日1万本以上を数人のスタッフで収穫するというから驚きです。オーダーに合わせて長さや大きさを見極めながらの収穫、そしておいしさや安心へのこだわり。「取引先にかかりつけの農家と思ってもらいたい」ときめ細やかな対応を目指す湯ノ口さんの思いが、確かな信頼へとつながっていきました。しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかったのです。
ハイビスカスの仲間でトロロアオイ科のオクラはアフリカが原産地。
取引先のオーダーや規格に合わせて収穫。「どんな要望にもできるだけ応えたい」と湯ノ口さん。
パキッと音をたてて折れるのは、ちぎりたての新鮮な状態。収穫翌日までなら、こんなオクラに出会えるかも!?
かえるの生態系を作り、野菜につく虫をかえるに食べさせているという無農薬栽培畑。
最初の1年は育てていた野菜が病気にかかってしまい売上がほとんどなく、お金のありがたみと農業の難しさを痛感したという湯ノ口さん。2年目には父親から経営を独立させて新たなチャレンジを開始します。指宿ではオクラの出荷・流通ルートが確立しているので、「作れば売れる」といわれています。しかし、流通に時間がかかるため、消費者の食卓に並ぶ頃には風味も食感も落ちてしまいます。「オクラをおいしく食べるには鮮度が大切」と、従来のルートが抱える課題を解決するために、インターネットでの直接販売に着手。さらに、もっと早く届けたい!と運送会社と何度も交渉を重ね、関西地方は出荷した翌日に、関東地方なら翌々日に届けられるようになりました。
新鮮な状態で届けることを実現した結果、また別の課題が表面化しました。ちぎりたてならではのシャキシャキとした食感に「硬い」という苦情が入ったり、袋についたオクラの分泌液に「虫の卵じゃないか?」と問い合わせがきたり…どちらも“新鮮な証拠”であるにも関わらず、知られていないために誤解が生まれたのです。「まずはお客さんにわかってもらわないとダメだ…」新鮮なオクラはどんな状態か、どんなふうに実がなるのか、どんな花が咲くのか…農作物の、自分たちの「今」を見てもらおう。湯ノ口さんはホームページやFacebookを通じて、積極的に作物や農作業の様子を包み隠さず公開し始めます。作る人、作られている野菜が見える、何よりも作っている人の思いが伝わる。アグリスタイルの真摯な取り組みが共感を呼び、取引先が少しずつ増えていったのでした。
自分の子供に安心できるものを食べさせたいという、野菜作りの原点はアグリスタイルの活動をさらに広げていきました。無添加の食品が少ないという現実に直面して、「ないなら作ればいい」とオクラを粉末にした加工品の製造を開始。自然体験が乏しい子どもが多いと知ると、農業体験やオクラの粉を使ったうどん打ち体験ができる食育プログラムを作って幼稚園などで出前講座を始め、2010年には野菜の収穫体験などができる「かえるの学校」を設立。それ以来、生産、加工、グリーンツーリズムを3本柱とした活動がアグリスタイルの「農業スタイル」となっています。
農業を始める時、湯ノ口さんは「自分の農産物で加工品を作る」「農業を子どもたちの憧れの職業にする」という2つの目標を立てました。1つ目は達成しましたが、2つ目はゴールが見えにくい目標。憧れの職業となるための条件「儲かるか、キレイか、かっこいいか、楽しいか」をまず自分たちがクリアしたい。おいしいオクラを作り、たくさんの人に知ってもらい、つながりを増やしたい。取引先や消費者に役立つ情報や喜んでもらえることを提供し、アグリスタイルの野菜を知ってもらいたい。「僕らはパフォーマーなんです」と湯ノ口さん。“口コミ”の力を自社の発展のためだけでなく、将来的には指宿の農業や観光の振興にも活かしたいと夢を抱きながら、新鮮な野菜と情報を届けるためのアイデアとパフォーマンスを日々進化させています。
かえるの学校では野菜の収穫体験、おくらうどん打ち、石釜ピザ作りの他、ウサギやヤギとのふれあいなども楽しめる。
(左)規格外のオクラを粉末に加工した「オクラパウダー」。パン、カレー、お好み焼きに入れるなど用途は広い。(右)オクラパウダーをうどんに練り込んだ「おくらうどん」。
※掲載の内容は、2013年5月現在のものです。