きっちんぷらす
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富山発(とやまチーズ)ブラジルからやってきた富山名産、純白チーズ

におい、酸味が少なく濃厚な風味が口の中に広がる「とやまチーズ」

毎朝、契約牧場から仕入れるしぼり立ての牛乳を使って、すべて手作業で作られる「とやまチーズ」。日本人の味覚に合うよう塩分を大幅カットし、ブラジルの伝統的な作り方を富山県産牛乳に合わせて改良しました。チーズ独特のにおいや酸味が少なく、お年寄りや子ども、チーズが苦手な人でも食べやすい、と地元スーパーなどで人気に。評判は口コミで広がり、全国にファンが増えています。

とやまチーズ
フレッシュチーズ250g
とやまチーズを使ったレシピはこちら


二人三脚で歩きだした、起業への道

ブラジルの専門学校でチーズ作りを学んだビルさんが約20年前に日本に来たのは出稼ぎのためでした。派遣社員として木材やプラスチックの工場で働いたり、溶接工などをしていた頃、チーズは家族が食べる分だけ作っていました。友人たちにおすそ分けしているうちに評判を呼び、商品化の要望が多く寄せられたため起業することを決意。日系ブラジル人3世の友人、木口さんとともに歩み始めたその道は想像以上に険しいものでした。

言葉の壁を乗り越えた、ビルさんの情熱

「富山でチーズを作り商売をしたい」。二人がまず行かなければならなかった場所は保健所でした。しかし「県内でチーズ製造許可を出した前例がない」「外国人が取るのは難しいのではないか」など、保健所からの回答はネガティブなものばかり。日本語が苦手なビルさんは思いをうまく伝えられずもどかしい思いをし、木口さんでさえも保健所の職員を説得するのは難しいように思われたそうです。でも、ビルさんはあきらめませんでした。何度も何度も足を運び、レシピを持って行ったり、設備に関する相談を持ちかけたりするうちに、その情熱に押されたのか職員たちの対応が変わってきたのです。全国のチーズ工場から資料を集めてくれるなど、一転協力姿勢に変わり、ビルさんと木口さんも睡眠時間を削って勉強し、申請準備を進めました。

苦労をともにしてきたビルさんと営業の木口さん。時々ケンカもするそうですが、それもすべて「いい商品」を作るため。
苦労をともにしてきたビルさんと営業の木口さん。時々ケンカもするそうですが、それもすべて「いい商品」を作るため。

すべて保存料、着色料など不使用。素材そのもののやさしい味がするビルさんの乳製品。

すべて保存料、着色料など不使用。素材そのもののやさしい味がするビルさんの乳製品。

ミネラル豊富な地下水を飲み、牧草をよく食べる健康な牛から出る牛乳は風味たっぷり。
ミネラル豊富な地下水を飲み、牧草をよく食べる健康な牛から出る牛乳は風味たっぷり。


チーズ作りには4〜5時間かかる。大きなタンクを運んだり、何分もかき混ぜ続けたり。体力勝負の作業が続く。
チーズ作りには4〜5時間かかる。大きなタンクを運んだり、何分もかき混ぜ続けたり。体力勝負の作業が続く。

細かい作業は、手で行う。自分の手の感触でチーズの状態を確かめるためでもある。
細かい作業は、手で行う。自分の手の感触でチーズの状態を確かめるためでもある。

富山県で第1号!!チーズ製造許可取得

そして、ついにチーズ製造許可を取得。しかし、それで終わりではありません。銀行から融資を受ける際にも言葉の壁が立ちはだかり、ブラジル製のシンクや機材の調達にもひと苦労。設備面に加えて、チーズ作りの現場でも課題が山積みでした。平均気温が低めな富山では酵母が発酵しにくいことや、原料の牛乳の質が今まで使っていたものと違ったので、扱い方に悪戦苦闘。「納得できる味になるまで、本当に遠い道のりでした」と木口さんは当時の状況を語ってくれました。

とにかく明るい!踊るチーズ職人

ビルさんのチーズ作りは、朝4時に牧場へ行き、しぼり立ての牛乳をその日使う分だけ仕入れることから始まります。工房へ戻り、6時頃から製造開始。取りかかる前に、原料の牛乳を作ってくれる牧場主に、おいしい牛乳を出してくれる牛に、そして今日も大好きなチーズ作りができることに感謝の気持ちを込めてシンク内の牛乳に向かい、合掌するのが日課。木口さんが内緒で工房を覗くと、好きな音楽をかけながら踊って作っているビルさんの姿が目に入るそうです。当の本人は「楽しい気持ちがチーズに伝わるとおいしくできる!」とあっけらかんと答えるのだとか。そんなビルさんは新作チーズの研究、試作にも余念がなく、思いついたら即実行。たとえそれが夜中でも木口さんの携帯電話にうれしそうな声でメッセージが残されています。「ナンカ、イイノ、デキタヨ!」


ブラジルの味、というより「富山の味」

ブラジルの伝統的なチーズに比べて塩分を約70%カットしている「とやまチーズ」は、酸化を進める水分を抜く作業に通常よりも手間がかかります。型に入れる前に木綿の布で包んで余計な水分をしぼり出し、型から出した後は丸1日冷蔵庫で寝かせなければなりません。塩をたくさん入れればこうした作業は必要ないのですが、「日本人にもっとたくさんチーズを食べてほしい」と願うビルさんは手間を惜しみません。愛情込めて作られたチーズはひとつひとつ手作業で梱包され、全国各地のファンの元へ出荷されます。
ブラジルではフレッシュチーズは八百屋でしか売られていない生鮮食品。そのフレッシュ感を味わえるとあってブラジル人に好評ですが、ブラジルの味を再現することより原料の質に合わせてレシピを変えることを優先してきた、と言うビルさん。「牛乳をそのまま固めたようなチーズ」と木口さんが例える通り、工程を取材して感じたのは素材の味をごまかせない製法であること。富山を第二の故郷として愛する心から生まれたチーズは、「富山の名産品」としても認められているほどです。

チームで作る、チーズ

製造者はビルさん一人ですが、「とやまチーズは一人の力だけでは決して生まれなかった」と木口さんは断言します。酪農家はもちろん、起業に関わってくれた人々、試食をして意見を聞かせてくれた家族、友人…いろいろな富山県民の協力があってこそ出来上がったブランド。ひとりひとりに感謝するとともに、地元に誇りを持って、とやまチーズでまず地元の産業から盛り上げ、日本中をフレッシュに、元気にしたい。そんな壮大な夢も膨らませながら、身も心も“富山県民”と自覚するビルさんは今日もリズミカルにチーズ作りに専念しています。

以前はなかった工程だが、塩分を減らすために新たにプラスした「手絞り」作業。
以前はなかった工程だが、塩分を減らすために新たにプラスした「手絞り」作業。

700リットルの牛乳のうち、チーズになるのはたった15%。1本の型からは440gのフレッシュチーズが9個とれる。
700リットルの牛乳のうち、チーズになるのはたった15%。1本の型からは440gのフレッシュチーズが9個とれる。

県内のイベントや物産展などに出動する「モーモー1号」。“焼きチーズ”が一番人気。
県内のイベントや物産展などに出動する「モーモー1号」。“焼きチーズ”が一番人気。


※掲載の内容は、2012年5月現在のものです。