愛知発(三州豚)愛情をたっぷり受けておいしく成長する“街育ち”ブランド豚
コクと旨味たっぷりのやわらかポーク
パンやパスタ、うどんなどの廃棄食品を回収し自社で加工した飼料「エコフィード」で飼育したブランド豚。小麦主体の100%植物性飼料を与えることで赤身にきめ細かなサシが入り、脂身の融点が低くなるので口の中でとろけるほどの柔らかい食感を楽しめます。また、飽和脂肪酸やオレイン酸などの旨味成分が一般の国産豚肉に比べて多いことが成分検査で証明されている、おいしい豚肉です。
昔の養豚ではレストランや食堂のいわゆる「食べ残し」を豚に食べさせていましたが、今は輸入配合飼料を与えるのが一般的。しかし、飼料代は為替相場や原料となるトウモロコシの収穫量などに応じて価格が変動するため経営が安定せず、養豚業者の大きな負担となっています。また、肉質を一定に保つのが難しいという課題もありました。そこで、鋤柄さんは「自分たちで選んだものを豚に食べさせるのが一番なのでは」と考え、小麦を主原料とするエコフィードの導入に着手。食品メーカーからパンや麺類などの、通常廃棄処分される規格外食品や余剰分を買い取ってリサイクルし、自社で飼料に仕上げます。良質な原料を使った飼料を食べると豚は健康に育つので、安全性が高まるともに肉の品質を安定させることにも成功しました。
「豚の味覚は人間に似ているんです」と鋤柄さんは言います。だから、豚も“おいしい”と感じる飼料で育てた方がおいしい豚肉になる。そんな信念のもと、エコフィードの原料として買い取るパスタなどは品質確認のために鋤柄さんが自ら試食するのだそう。乾物をメインに買い取っている理由は、長期保管が可能なうえ、水分含有量の少ない原料で作った飼料の方が豚の食いつきがいいから。また、一度加熱処理してある乾物は消化吸収率が良く、豚が栄養を十分取ることができるというメリットもあります。自分の目と舌で確かめた原料を使って、自社で飼料を作るスタイルは子どもたちの健康を考えて材料を選び、献立を考える「お母さん」とイメージが重なります。
約300坪もあるエコフィード専用倉庫。ここで回収、分別、かく拌、混合して飼料ができあがる。
▲エコフィード用パスタ
▲エコフィード用パン粉
▲エコフィード用ラーメン
エコフィード用に買い取る食材には、成分表を必ず添付するなど、飼料の品質を保つためのルールが定められている。
通学路沿いのシャッターにはかわいい豚のイラストが。登下校時の子どもたちの目を楽しませている。
コンポストは合計4台で最大約200トン処理できる。急速乾燥することで湿度30%前後のたい肥になる。
3階建ての豚舎は珍しく、海外から視察団が来ることもしばしばだとか。
大型倉庫や工場などが建ち並ぶ往来の激しい国道から1本路地に入った場所にあるトヨタファーム。近くには小学校や市街地があり、農場前の路地は子どもたちの通学路にもなっています。「地域の人たちに迷惑がかからないよう、においや排水の処理には特に気をつけています」と鋤柄さん。豚舎の各部屋に噴霧装置を設置し、夏場はメンソールやハーブを入れた霧を噴射して室内の気温を下げると同時ににおいを中和。また、エコフィードに腸内環境を整える菌などを加えることでフン自体のにおいを抑えて環境対策を行っています。1日10トンも出るというフンの処理にはコンポストを使用。コンポスト内で急速乾燥させてサラサラのたい肥にします。このたい肥は近隣の野菜農家をはじめ、希望者に無料で提供していますが、最近では遠方から家庭菜園用に譲ってほしいと訪れる人も多いそうです。
先代であるお父様が途上国出身の外国人研修生を受け入れていたので「小学生の頃から彼らの故郷に興味があった」と話す鋤柄さん。大学在学中、アジア諸国•北米•中南米•南米と途上国を中心に“放浪”し、さまざまな食文化に触れた経験を持ちます。異国の地で感じたのは「日本の食事はおいしくてレベルが高い!」ということ。卒業後、製薬会社で3年間勤めた後、渡米。コロラド州立大学で勉強しながら、いくつかの養豚場を視察したことで自信がつき、1996年から家業を受け継ぎました。自身が代表取締役となった現在も途上国から6名研修生を受け入れています。
鋤柄さんは、実は代々続く米農家の8代目でもあります。養豚では2代目ですが、農業•畜産ともに知識と経験が豊富。「日本の食料自給力を支える生産者として農地を守り、後継者を育てることも大事な仕事」と感じ、地元豊田市を中心に食育活動にも力を入れています。“食べ物”となる命を育てている仕事に誇りを持ち、取り組む姿を多くの子どもたちに見てもらおうと、保育園児や小学生の農場見学、中学生の職業体験などを年数回実施。「将来、農畜産業に就きたいと思う子どもが一人でも増えてくれるとうれしい」と目を細めます。
食欲を満たすだけなら、安くておいしいものが簡単に手に入る時代。でも、本当においしい食べものには、ひとつひとつに“ストーリー”があることを子どもたちに知ってほしい、と鋤柄さんは熱を込めて語ってくれました。「野菜嫌いの子には、とれたての野菜の味を知ってほしい。もし豚肉が嫌いな子がいたら、うちの豚肉を食べてみてほしい」。その食材の本当の味を知るには新鮮なものを食べるのが一番だけれど、そんな機会が減ってきているのが今の日本の現状。手づくりの味に優しさや温かさを感じるのは、そこに「時間」と「手間」がかかっているから。「食べる人のことを思って作れば手間はどうしてもかかるんですよ」そう言って笑う鋤柄さんのお話を聞いて、食材にこだわるレストランなどから三州豚のオーダーが相次いでいる理由がわかりました。
好奇心いっぱいの離乳期の豚たち。お世話のため鋤柄さんが部屋内に入ると集まってきた。
トヨタファームの事務所前で出迎えてくれる豚の石像。ふっくらとした顔がかわいい。
提携している店舗には無料で配布するという「三州豚オリジナルグッズ」。
※掲載の内容は、2012年2月現在のものです。