きっちんぷらす
スチコンレシピ 1201 recipe

静岡発「くぬぎ鱒(富士レインボー)」霊峰富士の清らかな天然水と贅沢な環境で育てられる“品格”高いニジマス

1日目はコリコリ 3〜4日後、まるでトロ「くぬぎ鱒(富士レインボー)」

病気に弱い魚だから投薬は当たり前、という養鱒業界の常識を覆し、完全無投薬でストレスのない環境で育てられるニジマス「くぬぎ鱒(富士レインボー)」は、網ですくうと今にも飛び出さんばかりに尾びれをビチビチと振って体をくねらせます。元気なだけでなく、旨み成分(粗脂肪)が他の養鱒場のマスより飛び抜けて多く含まれていることも県の調査で実証済み。処理後15日間冷蔵庫内で保存可能で、その旨みは日を追うごとに増し、最初はコリコリとした歯触り、3〜4日経つとマグロのトロのような食感が楽しめます。

くぬぎ鱒(富士レインボー)
くぬぎ鱒(富士レインボー)
くぬぎ鱒(富士レインボー)を使ったレシピはこちら


限られた場所でしか作れない“限定”食材

富士山から湧き出るミネラル分豊富な天然水をふんだんに利用できる富士宮市は、日本有数のニジマス生産地。しかし、質より量の生産体制が長く続き「マスはニオイがきつい」というイメージが浸透してしまったため、食材としてあまり好まれていません。育てるのは比較的簡単だけど「おいしい魚」にしようとすると難しいニジマス。養殖には大量の水を使いますが、富士宮市のように毎分10トンもの水が流れ込む養殖池がある環境は国内でも少ないでしょう。「限られた場所でしかできないことをやらせてもらってる。そんな仕事ができる僕は幸せ」と功刀さんは目を細めます。

強い遺伝子をもつ「銀形」への改良に成功

サケ科の魚には、海に下る種類と一生淡水で暮らす種類がいます。マスは一生淡水で暮らすものが多いのですが、功刀さんはこの「海に下り、また川へ上ってくる根性のある」遺伝子を持つ種類に近づくようにマスを改良することに4年かけて成功し、この種類のマスを「銀形」と名付けました。そして、銀形ニジマスの中でも病気に負けず、自然界の生存競争にも勝てる生命力の強い個体だけが「くぬぎ鱒(富士レインボー)」になれるのです。その確率は約10分の1。稚魚が10万匹いたとすると出荷できるのは約1万匹というから驚きです。

その昔、江戸幕府に献上されていた「芝川のり」が育成されていた芝川の清らかな水を池に取り込んで利用している。

芝川の清らかな水を池に取り込んで利用している。

大小合わせて10個の池と8つの稚魚水槽がある。
約1000坪の敷地に大小合わせて10個の池と8つの稚魚水槽がある。


くぬぎ鱒(富士レインボー)は3〜4年かけて丁寧に育てられる。
通常2年半ほどで出荷されるが、くぬぎ鱒(富士レインボー)は3〜4年かけて丁寧に育てられる。

自然に近い状態の池で自然淘汰され強い魚だけが生き残る。
10万匹いる稚魚のうち、出荷できる状態までに育つのはその1割程度。自然に近い状態の池で自然淘汰され強い魚だけが生き残る。

池にはさまざまな工夫が施されている。
雨が降った時に酸素を送り込むための水車を導入するなど、池にはさまざまな工夫が施されている。

ストレスのない贅沢な環境

池を見せてもらうと、マスたちが悠々と泳ぎ回っていました。同業者が視察に来ると「こんな育て方では1年で倒産するぞ」と言う“非常識”なほど低密度な池。でも、長年マスと向き合って研究を続けてきた功刀さんは「人間も魚も同じで“無意識の中の環境”が健康状態に影響を及ぼす」と考えます。池を電車内に例えるとわかりやすく、低密度な池は「外の景色も楽しめるゆったりした車内」。たくさん詰め込んだ池は「イライラして不快な気分になる満員電車」。天然のマスは、どちらで生きているか?答えはもちろん前者。自然界となるべく同じ状態を作り、ストレスなく育てることが、量より「質」を重視した功刀流マス飼い術なのです。

養鱒業ではなく“尊養業”

魚へんに尊いと書いて「鱒」。尊い自然の中で育つ、尊い命を支えている尊い魚だから、自分の仕事を“尊養業”と呼ぶ功刀さん。でも、自分のことは謙遜して「ただのマス飼いおやじ」と照れ笑い。
くぬぎ鱒(富士レインボー)が誕生する前の生活は、1日中ずっと魚とにらめっこで家に戻るのは食事の時だけ。投薬をやめ、魚本来の能力を引き出す方法を模索しながら何度も何度も失敗して、それでもあきらめず、魚の「声」を聞き、正直に向き合ってきた粘り強さが12年目で実を結びました。でも、また元の味に戻るんじゃないか、と毎晩夢でうなされたそうです。くぬぎ鱒(富士レインボー)の誕生から1年半の間、他のマスとの食べ比べを繰り返し、2年後にやっと確信できた、と当時を振り返って話してくれました。

神経を研ぎすませて行う、分刻みの管理

雨がぽつり、とでも降ろうものなら、功刀さんはたとえ夜中でも布団から飛び起き、池へと急ぎます。ゴミなどが詰まって池の水が止まると全滅してしまう、とてもデリケートなマスの管理は「分刻み」。雨や風の様子、池の水と魚たちの状態を確認して必要な処理をし、異常がなくても2時間おきに池を見回る。ゆっくり寝てもいられない厳しい毎日。でも、「そこまで神経を使わないといいものなんて作れない」と功刀さんは断言します。


調理人である自分が認める「おいしさ」を追求

「先月はうまかったけど、今月はイマイチ」なんて料理は通用しないから、と調理人でもある功刀さんは厳しい目で魚を選別し、年間を通して同じ品質のものを出荷可能にしています。その“品格”とも呼べそうな質を守るため、来る日も来る日も魚のことばかり考えて研究と世話に余念がありません。数値上ではなく、実感として自分の舌で変化を感じることが大切だと考える功刀家の食卓には毎日、くぬぎ鱒(富士レインボー)がいろいろな料理に姿を変えて登場します。功刀さんいわく、「まずいものをうまいものに変えることはできない。食材自体がおいしければアイデア次第でおいしい料理はいくらでもできるんです」。

使うのに“資格”がいる魚

「買ってください」なんて媚びる姿勢はまったく見受けられません。自らを「商売人じゃなく職人」という功刀さんは、自身が納得した相手としか取引をしないと言います。調理人の目線で育てているので、「お客さんが僕のマスを使った料理を堪能して、食材についてオーナーや料理長と話ができる、金銭的にも精神的にも余裕がある人が来る店じゃないと売る意味がない」ときっぱり。使うにも、食べるにも“資格”がいる魚なのです。
おいしいものを食べると人は幸せな気分になる。提供する側と食べた人、このマスの味を知った人同士の気持ちが通じ合い、感動や喜びが伝播していくような食材にすることが功刀さんの目標です。功刀さんの「くぬぎ鱒(富士レインボー)」にかける夢にはまだまだ終わりが見えません。

夫婦で切り盛りしている料理屋は完全予約制、夜のみの営業。
運が良ければ珍しいマス料理が食べられる!?
夫婦で切り盛りしている料理屋は完全予約制、夜のみの営業。

コリコリとした食感で甘く、臭みはまったくない。

試食した刺身は水揚げ後1日経過したもの。コリコリとした食感で甘く、臭みはまったくない。

奥様愛子さんと、「魚大好き!」というお孫さんの瑛太君(左)と涼太君(右)。
二人三脚でマスを育ててきた奥様愛子さんと、「魚大好き!」というお孫さんの瑛太君(左)と涼太君(右)。


※功刀さんの「功」は、正しくは「工」に「刀」です。

※掲載の内容は、2011年6月現在のものです。