青森発「こめたま」 白い黄身からはじまる、本当の豊かさを求めて。
お米から生まれた卵「こめたま」
卵を割ってビックリ。いつもの卵よりずっと淡いレモン色の黄身がぷっくりと目の前に現れました。味はいつもの卵と比べちょっとさっぱり。白い卵焼きができあがり、またビックリ。黄身の色は鶏に食べさせる餌で決まるといい、「こめたま」はトウモロコシの替わりに米を食べているため白っぽい色をしています。地元の米を主原料にして、薬や添加物を一切与えずにできた安全で健康な卵。国産の飼料を使用し食糧自給率アップに貢献できるとともに、米作りの農家と養鶏農家の連携で、循環型農業が可能に。「こめたま」は、食卓から本当の豊かさを求め、日本の未来を見つめています。
「玄米たまご・こめたま」は6個で630円。
こめたまを使ったレシピはこちら
トウモロコシから米へ、飼料の転換を発想。
青森県南津軽郡藤崎町は、リンゴの特産地。その中でも、引き締まった果肉に甘い果汁の品種「ふじ」発祥の地として知られるところです。その藤崎町の常盤村養鶏農業協同組合(トキワ養鶏)で2007年、“白い黄身”をもつ卵が誕生しました。それは「玄米たまご・こめたま」というネーミングで販売を開始。こだわりの飼料を使い、従来の卵に比べ健康へのメリットが高いという「こめたま」は、いま、じわじわと日本の食卓に広がっています。「こめたま」は一体どのように誕生したのか、そこには1994年の中国南部での大洪水に始まるストーリーがありました。
「鶏の餌はずっとトウモロコシが主流。当時はアメリカだけでなく中国からも輸入していた。黄河の大洪水で輸入がストップされ、飼料を身近なところで作らなければやっていけなくなるとひしひしと感じた」と、常盤村養鶏農業協同組合の石澤直士組合長。「どこでトウモロコシを手に入れるか、それしか頭になかった」と当時を振り返ります。そのようなとき、米はどうだろうか?という提案を聞き、世界各国の状況を調べると、どこでも人間の一番身近な食料を餌にしていることがわかったとか。そのとき初めて“米でいこう!”と思ったと言います。それが1996年のこと。その年に、また中国の黄河で大水害が起こり、ついにトウモロコシの輸出がストップしたのです。
トキワ養鶏は、寒冷地での養鶏技術を
初めて確立したことでも知られる。
休耕田を活用して飼料米を栽培。肥料には
鶏糞を利用し、循環型農業を実践している。
飼料用米としょう油かすなどを混ぜた餌。
日本人の伝統的な食事を彷彿とさせる、
安心・安全な飼料。
赤っぽい羽が特徴の「後藤もみじ」。
鶏舎には朝から夕方までモーツァルトの曲が流れる。
鶏舎内はほとんど無臭でいつも清潔に保たれ、
鶏たちは木箱の中で卵を産む。
写真は「黄斑プリマスロック」。
休一つひとつ問題をクリアし、飼料米の生産に挑む。
飼料米への第一歩は、何年も使われず放棄されていた田んぼが舞台。候補になった“べこあおば”の種4kgを手に入れ、普通の米と植えて比較した結果、普通の米は5俵、べこあおばは16俵も取れたのだとか。その上、「玄米を混ぜた餌を鶏に食べさせたら、丁寧に米を選んで食べている。鶏は米が大好きなんだと分かったら、ぜひこれは進めなければと思った」と石澤さん。
しかしそのとき、黄身の色はどう解決するかという問題が浮上。米を食べさせるとどうしても白くなるが、目玉焼きは黄色くなければ受け入れられないのではないか?ということ。しかし着色してしまうと普通の卵と変わらなくなってしまうため、色を付けないでいこうということになりました。また、農家は人間の食べ物である米を、飼料米として作ることに強い抵抗を持っていました。さらに米には品種登録が必要であり、べこあおばは青森の気候は向かない品種であるとか、粒の状態で餌にはできないなどの規制があり、その都度、地域や県、国を相手に足を運んで説得。「一つひとつ丁寧に解きほぐしていくことが私の役割」と石澤さんは言います。
現在、トキワ養鶏にいる鶏は約4.5万羽。その中で「こめたま」を産む鶏は、“後藤もみじ”と“黄斑プリマスロック”という日本で育種された2種。約2,000羽が平飼いされ、あたりを走り回っています。場長の能登谷良精さんによると、ひなから成長した鶏にたくましい骨格ができ、良い卵を産むかどうかは飼育者の技術にかかっているということ。毎日「元気か!」と声をかけながら鶏の様子を見て、仲間はずれの鶏がいないかにも気を遣うと話します。春には外に出して草を食べさせ、夏の暑い時は食欲がなくなるので夜間の涼しいときに餌を与えることもあるそうです。鶏の健康状態を第一に、周囲にいつも気をくばっていると、能登谷さんの笑顔の中に厳しいプロの目が光ります。
毎日が新しい発見!循環型農業へ向かって。
今年1月、トキワ養鶏の取り組みは、FOOD ACTION NIPPON アワード2009の農林水産大臣賞と大賞のダブル受賞という快挙を成し遂げました。石澤さんは、「鶏は米が好き、米(稲)は鶏糞が好き、昔からそうだった。鶏は餌を食べ、山で巣を作る。そして鶏糞は山を豊かにする。そういう当たり前の仕組みを皆忘れていた」という反省から、こめたまから始まる循環型農業を広く伝えたいといいます。
卵は最終的に人間が食べるもの。飼料を輸入するより国内で生産できれば、生産の様子も見られて安心というもの。これまで輸入にかかっていた金額が、単純にそのまま国内に残るだけでも農業の活性化につながります。しかも鶏糞を使って稲作をすることで、未来に向けた循環型農業のカタチが見えます。また「こめたま」は、トウモロコシを食べさせた卵に比べ、悪玉コレステロールを下げる働きのあるオレイン酸やリノレン酸などが多く含まれます。卵の消費が世界でもずば抜けて多い日本人にとって、健康にも大いに貢献できる食品なのです。
「先入観や常識を取り払うと、どんどん楽しい世界が見えてくる。毎日、新しい発見があり面白いことが起こる。まるで初めて恋をしたときと同じ…」と石澤さんは笑います。また、「同じ事を繰り返しながらも見えてくる発見とは、子どもが成長していく姿と同じ。この先どうなるかな、と。農業の世界ではしばらく忘れていた感覚ではないか。この次は?本当においしい大豆を作る。農地の有効活用にもなるシステムが必要」と、「こめたま」からスタートした本当の豊さへの挑戦は、まだまだ続きそうです。
スタッフから「だんだん鶏に似てきた(笑)」
といわれる場長の能登谷さん。
この道、40年のベテランだ。
産みたての後藤もみじの卵は、人肌ほどに温かい。
1年間で1羽が約300個の卵を産むという。
手前が「こめたま」、奥が一般の卵。
まったく黄身の色が違うことがわかる。
※掲載の内容は、2010年3月現在のものです。