きっちんぷらす
スチコンレシピ 1201 recipe

新しい農業技術が生み出すおいしさ「ほうれん草」

おなじみの緑黄色野菜・ほうれん草がいちばんおいしい季節は冬。
厳しい寒さの中で時間をかけて育つため、
甘みと栄養がたっぷり蓄えられていくのです。
今回は、科学的なアプローチで、安全でおいしい
「益荒男ほうれん草」を作る「ジャグロンズ」を訪ねました。

収穫を終えた水田を有効活用

 ジャグロンズの代表である藤原さんは、もともと農林水産省の研究機関でほうれん草やキャベツなどの生産技術を研究・開発していました。その時に開発した栽培方法を活用して、現在、ほうれん草を作っています。
ジャグロンズの栽培方法が他と大きく異なるのは、収穫を終えた水田を活用して「セル苗」を使っている点。セル苗方式はセルトレイで育成した成型苗を畑に移植するもので、レタスやキャベツなどで普及している栽培方法です。ほうれん草は湿害に弱いため、直播きでは水田を利用した栽培ができませんが、セル苗の生育状態を研究・コントロールすることで湿地での栽培を可能にしています。取材に伺った11月は冬ほうれん草の栽培がスタートしたばかり。多くの水田が畑に姿を変えて、苗の移植を待つ状態でした。今年の作付総面積は約6,000坪。その土地のほとんどが収穫の終わった水田、地元の人たちが貸してくれたものです。


ほうれん草のセル苗。根を浅く張らせることで湿地での栽培が可能になった


冬になると、あたり一帯の水田がほうれん草畑に変身する



科学的農法で作られるほうれん草

 ジャグロンズの「益荒男ほうれん草」はとても甘く、ほうれん草特有のえぐ味も少ないのが特長です。なぜ、そんなほうれん草を作ることができるのか?その秘密は数値に基づいた科学的農法である「ジャグロンズ農法」にありました。「益荒男ほうれん草」は研究によるデータをもとに育てられており、おいしくてヘルシーで安全であることもすべて数値で示すことができます。たとえば、おいしさのカギを握る甘さは品種だけによるものではなく、ほうれん草そのものが大きくなりすぎないようにコントロールし、甘さのもととなる糖度を蓄える育て方をしているからなのです。また収穫できる大きさになっても、すぐには収穫せず、データに基づいておいしくなる時を待ちます。その結果、一般のほうれん草で約3〜5度といわれる糖度が、益荒男ほうれん草では約10〜12度と非常に高い数値となるのです。ビタミンC(アスコルビン酸)の含量も一般のほうれん草の2〜3倍と高く、また安全性の面では、摂り過ぎは体によくないとされている硝酸イオンの濃度が世界で最も厳しいEU基準(3,000ppm)の1/10以下という結果も出ています。
ジャグロンズでは、数値をもとに合理的に安全でおいしいものを安定して作るだけでなく、作業の効率化にも力を注いでいます。背景にあるのは、農家の高齢化や後継者不足。自身で生産小売業を実践するとともに、その技術や情報を地域の担い手に提供し、農業の発展に貢献したいと考えているからです。セル苗を畑に移植する作業負担を減らすために、専用の移植機を農業機械メーカーと共同開発。電動による半自動の移植機で立ったままの移植作業ができるようになり、少ない人数で広い面積の作付けを可能にしています。


苗を移植してからじっくり時間をかけて育てる。写真は生育途中のブラックタイプ。色が濃く肉厚で和食やイタリアンに向いている。ほかに、驚くほど甘いゴールデンタイプ、ちぢれた葉が特徴のアフロタイプなどがある


電動式半自動多条野菜移植機「ちどりさん」。筒の部分に苗を入れて車を進めながら移植していく


移植された苗。移植が済むと不織布をかけられ、その中でほうれん草が育つ



多くの人々に支えられて

 研究機関から農業の現場へ移って4年目を迎えた藤原さん。就農に至ったのは、開発した技術が生産現場で活かされていないという現実があったからでした。技術を現場につなぐ架け橋になりたいと一念発起して就農。生産小売事業を目指して、開発した技術でほうれん草を作り始めましたが当初は作ることも売ることも思ったようにはいかず、研究と現場は違うことを身にしみて感じたそうです。一人で悪戦苦闘する日々が続き、やがて地域の人たちが助けてくれるようになり、スタッフが増え、なにより「益荒男ほうれん草」を愛してくれるお客さまが増えてきました。現在では生産量の7割がレストランや病院、老人保健施設、生協などへ。残り3割を仲卸で取り扱っています。ほうれん草を育てる畑も地主さんたちの協力で年々面積が増えてきました。ほうれん草を育てるには、この土地の光が最高にいい条件だと話す藤原さんは、地元の人々への恩返しの意味も込めて、いつか「益荒男ほうれん草」を津の特産品にしたいと考えているそうです。
多くの人々に支えられて、確実に広がり始めたジャグロンズの活動。それは、藤原さんの「日本の農業を活性化したい、おいしくいいものを届けたい」という思いが共感を呼び、「益荒男ほうれん草」のおいしさが人々を惹きつけているからなのではないでしょうか。


ジャグロンズの皆さん。後列・左から倉島さん、倉光さん。前列・左から馬野さん、藤原さん


まもなく畑の一角に直売所も設置される予定



ジャパン・アグロノミスツ株式会社(通称:ジャグロンズ)代表 藤原 隆広さん

たくさんの方々においしいほうれん草を届けたいという思いで、ほうれん草づくりをしています。科学や技術はそれを手助けするための情報や方法に過ぎず、作る人が手をかけるからおいしくできることには変わりはありません。大きくなったから収穫するのではなく、おいしくなったから収穫する。スタッフ全員が「ほうれん草ソムリエ」として、おいしいほうれん草をお届けできるよう、これからも食べる人のことを第一に考えたほうれん草づくりを続けていきたいと思っています。

[取材協力]
ジャパン・アグロノミスツ株式会社 三重県津市大里野田町133 TEL:059-230-0975
http://www.jagrons.com/

※掲載の内容は、2009年11月現在のものです。

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