Vol.20 この時世、効率追求で行くべきか?
経費削減のためには、効率的な経営を行なうことが大切である。特にいまの時代は売上の確保が難しくなっているので、ムダをなくすことが重要だ。では、やはりこの時世、効率追求で行くべきなのだろうか。それとも、効率追求が良いとは限らない?
最近はどこに行っても、なかなか明るい話が聞けない。景気が悪い…、競合店ができた…、だから、売上が減って困っているといった具合だ。「何かいい方法はないのか?」と考えても、「何をしたらよいか分からない」。そんな八方ふさがりのケースが多く、有効的な戦略に打って出ることができない。
また、「こういう方法もありますよ」とアドバイスを受けても、「いやあ、うちの店じゃ、むずかしい」、「すぐにはムリ」と、できない理由を並べてしまいがち。確かに厳しい時代だが、後ろ向きな経営では、打開策は見つからない。
そんな中、「いかに効率的に商売をするか」 ということばかりを考える店も増えてしまっている。売上が伸びないのなら、経費を抑えなければならないという理屈は間違いではないが、安易な効率追求は危険だ。
料理に手間をかけなくなる、接客も省力化が最優先となると、店の魅力がどんどん削ぎ取られる。その結果、経営はさらに悪化するという“負の循環”に陥りやすい。
効率を優先し過ぎると、どこか平板な店になってしまい、お客様の心にひっかかる起伏のようなものがなくなってくる。つまり、どこにでもある店になり、「この店を利用する理由がない」ということになるのだ。
こんな時だからこそ、“非効率”な取り組みも大事にする発想が必要だ。ムダなコストはなくさなければならないが、多少、非効率でもやり続けるべきこと、残しておくべきことがあると考えた方がいい。
経営の効率化を目指すことがダメなのではない。同じムダでも、「放置してはいけないムダ」と、「一見、ムダなように思えても、実は大事なこと」があるのだ。
一例をあげれば、ネットのメールではなく、手書きのサンキューレターでお客様に感謝を伝える。あるいは、おしぼりを袋から出して巻き直す(巻き直すことで、心がこもる)。ひと手間かかるので非効率だが、そうした取り組みはお客様へのアピールだけでなく、スタッフの心を育てる点でも大きな意味がある。
『よろずや食堂』の顧客手帳に関しても、もちろんパソコンでワープロ管理にする方が効率的だ。しかし、あえて手書きで書くことで、お客様の行動やしぐさ、嗜好などを思い出すことができ、その情報が頭に入る場合も多い。効率追求が良いとは限らないのである。
手書きで頑張る店長の姿にスタッフの士気も向上
地方都市の主要駅から徒歩20分のところにあるパーティーレストランF店は、年間延べ5万人のお客様が来店する。顧客名簿もパソコンで管理。登録顧客数は3000人にのぼっている。
しかし、店長のU氏が覚えているお客様の数はせいぜい数十名程度。名前を覚えるのが苦手なU氏は、手書きの顧客手帳を持つようにし、お客様の似顔絵を6回書くようにした。
さすがに似顔絵を6回も書けばU氏でも名前を覚えられるようになり、さらにお客様の食べたものや会話を思い出し、お客様の識別にも役立った。また、閉店後に顧客手帳を書いているU店長の姿を見て、スタッフの士気も向上している。
「あえて非効率」の発想も大切!
効率を優先し過ぎると、他店との差が感じられない店になってしまい、結局、不振に陥るというケースが少なくない。こんな時代だからこそ、あえて“非効率”な取り組みを大事にする発想も必要。一見、ムダなように思えても、実は大事なことがある。