【京都発】エチエ農産のメロンたまねぎ:みずみずしくて甘〜い その名も「メロンたまねぎ」。おいしさの秘訣は土にあり
常備野菜の代表選手・たまねぎは、生食向きの「極早生」や「早生」、保存用の「中生」などの品種がリレー方式で栽培され、年間を通じて市場に出回ります。エチエ農産が手がけるたまねぎもこの3種。ごく普通の品種がことさら甘くなる秘訣は、10ヵ月もの間、たまねぎを抱き続ける土壌にあります。ジューシーで大変甘いことから「メロンたまねぎ」の愛称をつけられました。辛味が少なくてお子様でも食べられると、レストランやスーパーだけでなく、多くのご家庭からも直接オーダーが入ります。
メロンたまねぎ
1kg 400円(税・送料別)
高校を卒業して会社勤めをする傍ら、実家の農作業を手伝っていた越江雅夫さん。裏山に広大な国営農地が造成されたことをきっかけにし、会社を退職して農業一本に絞り込みました。就農当初は米と並行してタバコを栽培していましたが、農薬を多用するタバコ栽培に疑問を持ち、本当にやりたい農業は何なのかを自問自答。「未来の子供たちのために、安心安全な米や野菜を作りたい。それができるのは農家だからこそ」と、タバコ栽培から手を引き、土壌を一から作り直しました。そこへたまねぎをはじめとする野菜を植え、新たな挑戦が始まったのです。
子供たちの未来を考えながら、米や野菜を丹精込めて作っても、組合を通せば「丹後産」として表記され、一括りに扱われます。これでは手間に見合った収益が上がらず、込めた思いも伝わりません。そこで雅夫さんは組合に頼らない、自力での販路開拓を決意。地元商工会の協力を得て、自作の米や野菜を流通業界や加工会社、レストランのオーナーなどが集まる商談会で紹介したところ、反応は上々でした。相手の目を見て説明し、一度でも食べてもらえば価値は必ず評価されると確信。安心安全な食をより広く流通させ、信頼を得る目的で平成19年に法人化し、近隣農家とも連携を取り合って、本格的な活動をスタートさせました。
環境の変化で一時はこの地から姿を消したコウノトリ。隣接する兵庫県豊岡市が繁殖に尽力し、羽数も徐々に増えている。エチエ農産の圃場でも勇壮に羽ばたく姿が見られるそうだ。
ポットで育てた苗を定植。以前は人海戦術で行なっていたが、栽培面積も増えて広大な敷地を少人数で管理・運営するため、機械での定植へ移行した。
マルチで覆っても、少しの隙間から雑草は生えてくる。生えてしまったものは引っこ抜くしか手立てがない。毎日の地道な手入れがおいしいたまねぎを作り出す。
あと1ヵ月で収穫期を迎えるメロンたまねぎ。雅夫さんと昭公さんの厳しい目でチェックされる。しっかりとした葉の付け根が大きく成長する証。今年も出来が良さそうだ。
販路を広げるとともに、有機認証の取得を視野に入れ、たまねぎの完全無農薬・無化学肥料栽培に着手。ところが裏山の国営農地は砂状の土で養分に乏しく、施肥が必要です。そこで自作の米から出た米ぬかをペレット状にし、籾殻と一緒に土へ混ぜました。すると一般的なたまねぎが糖度7〜8度なのに対し、12〜13度まで上昇。メロンに匹敵する甘さをもつことから「メロンたまねぎ」と命名し、早速商標登録を申請しました。ところが「メロンなのか、たまねぎなのか判別しにくいと却下されたんです」とバツ悪そうに話す越江さん。それでもメロンたまねぎの愛称で呼び続け、知名度アップを図りたいと、思いを語ってくれました。
生命力の強い雑草は、養分を横取りしてたまねぎの生育を妨げます。圃場に黒いマルチを施すことで、雑草の発芽を抑え、太陽の熱で害虫を排除する方法を編み出しました。こうした化学肥料や薬剤に頼らない取り組みで、有機JASの認証を取得。近頃ではコウノトリがエチエ農産の圃場にも現れるようになったといいます。農薬等の影響でエサの捕獲が困難となり、一時は姿を消したコウノトリ。正しい食物連鎖が循環し始め、彼らにとって住みやすい環境が整ったからでしょう。雅夫さんの取り組みは子供たちだけでなく、コウノトリにも優しく働きかけているようです。
大の機械好きを自認する雅夫さん。長年培ったパソコンやカメラの知識を仕事にも役立てようと、自らエチエ農産のホームページを立ち上げました。ブログのシステムも自作し、農業に対する思いや、有機栽培の取り組み、農産物の生育状況などをタイムリーに発信。そうした地道な努力が功を奏し、バイヤーからの商談オファーや、一般消費者のオーダーが直接入るようになりました。また、異業種と連携して6次産業にもチャレンジ。干すことで旨味が増し、保存もきく「乾燥たまねぎ」は瞬く間に話題となり、噂を聞きつけた関東の大手デパートからもラブコール。今では作っても作っても即完売するほどの人気商品です。
4月の終わり、雅夫さんと長男の昭公さんの案内で、メロンたまねぎの圃場を見学させてもらいました。見渡す限り青々とした葉が、天に向かってすっくと伸びています。この調子なら5月下旬から収穫できそうだと、二人ともひと安心した様子。観察をひとしきり終え、雅夫さんから「実は来月、息子が社長に就任します」との重大発表がありました。法人化から10年を迎え、次世代にバトンタッチするいいタイミングだと、決意を固めたといいます。昭公さんに意気込みをたずねると「私たちの思いを多くの方に伝えて、食への関心を深めていただきたいです」と淀みない返答。雅夫さんが描いた夢は、次期社長へとしっかりと受け継がれているようです。
6次産業の一環として作った乾燥たまねぎ。甘みと旨みが凝集されて、そのまま食べてもおいしい。スープや煮物に入れるとコクが増し、保存もきくので人気を集めている。
安心・安全な野菜を選んで買うきっかけ作りになったらと、農業体験の受け入れに積極的。「価値を理解してもらうには現場を見てもらうのが一番」と雅夫さんは語る。
※掲載の内容は、2017年4月現在のものです。