【群馬発】小山農園のこんにゃく:際立つ粘りと風味。おいしさの秘訣は“昔ながら”の作り方
こんにゃく芋の生産量が日本国内の約90%を占める群馬県。この一大産地にあって、ひと際注目を集めているのが小山農園です。こんにゃく芋の栽培からこんにゃくの製造までを一貫して実施。商品となったこんにゃくは、農林水産大臣賞を3年連続で受賞し、最も栄誉のある天皇杯も受賞しました。高い風味とモッチリとした食感が評判を呼び、日本を代表する名湯、草津や万座などの老舗温泉旅館でも愛用されています。
手造り生いもこんにゃく
1袋350g 250円
※消費税・送料・別
東南アジア原産でジャングルのような地に自生するこんにゃく芋。年間を通じて温暖で水はけの良い地では、大きくなるまで放っておいても問題ありませんが、四季のはっきりした群馬県では冬の霜や雪で地中の芋は変質してしまいます。この問題を解決に導いたのが、地上で越冬させ、3年かけて大きくするという育て方。こんにゃく芋の根の先にできる小さな「生子(きご)」という種芋を霜が降り始めた11月頃に採取し、12月〜4月半ばまでは5〜8℃前後で保管します。5月に入ったら土に植え付け、再び11月に収穫。もう1年繰り返し、ようやくこんにゃく作りに適したこんにゃく芋ができ上がります。
世界遺産の富岡製糸場で知られるように、群馬県はシルク原料となる養蚕業が盛んな地域でした。ところが第二次世界大戦後は合成繊維の開発や海外での大量生産が影響して衰退の一途へ。そこで養蚕農家はこの地に古くから根付いていたこんにゃく栽培へと転向したのです。小山家も昭和23年に転向し、林衛さんは昭和49年に父親の後を継いで就農しました。順調に収量を上げていた矢先の昭和58年〜60年、県内初の根腐れ病による壊滅的な被害を経験。原因を調べると、榛名山麓に広がる肥沃な平地と利根川水系の清流という恵まれた環境が、こんにゃく芋栽培には支障をきたすことに気づいたのです。
春に種芋の「生子(きご)」を植え付け、畝の間には大麦を蒔く。大麦は成長時に余分な水分を吸収し、枯れた後は水捌けの良い土壌を作りつつ、肥料となる。
8月に青々とした葉を
生い茂らせるこんにゃくの木。
11月に入って霜が降りるたびに葉が黄色くなって茎が倒れ、収穫期を迎える。この時ばかりはアルバイトを雇い、20人がかりで一斉にこんにゃく芋を掘り起こす。
収穫した生子や2年もののこんにゃく芋は、12〜4月半ばまで5〜8℃前後に保った納屋の屋根裏で越冬する。一日中囲炉裏に炭と籾糠をくべているため、室内はスモーキーな香りが充満。
3年をかけて育て上げたこんにゃく芋。まわりの土をきれいに落とし、一つひとつ竹ベラを使って皮や芽をこそぎ取り、生ずりに備える。
水はけが悪く、根腐れ病の温床になりやすい平地という条件をカバーするため、畝の間に大麦を植えることを考えついた林衛さん。秋先に蒔いた大麦は根を4メートルも伸ばします。細菌が発生しやすい6・7月に余分な水を吸収する上、茂る稲穂が土を遮光して雑草をはびこらせません。虫たちはこんにゃくをスルーして大麦に寄り付くため、殺虫剤は最低限で済みます。7月を過ぎると突然稲穂も根も枯れて地下にはポッカリ穴が空き、過剰な水を排水。枯れた稲穂は肥料になります。連作障害を防ぐために山ウドやトウモロコシなどを輪作し、近隣の畜産農家から買い受けた堆肥を取り入れるなど、環境にも身体にも優しい栽培方法を確立。この地道な取り組みが認められ、平成13年に県内で初めてのエコファーマー認定を受けました。
群馬県内で栽培されているこんにゃく芋の代表品種は3種類あります。最も多いのが「あかぎおおだま」で全体の約60%、2番目が「みやままさり」で約20%、1番少ないのが「はるなくろ」で10%ほど。かつては群馬全体で主流だったはるなくろですが、根腐れ病が大流行した時期を境に、多くの農家が病気に強いあかぎおおだまへ移行しました。小山農園も根腐れ病に悩まされましたが、引続きはるなくろを採用。理由はとてもシンプル、“おいしい”から。他の品種にはない風味とモチッとした粘り気が何よりの魅力だと言います。病気に弱いという難点を栽培方法でカバーし、現在もはるなくろを主力品種としています。
小山農園はこんにゃく芋栽培の専業農家でしたが、昭和63年から製品作りにも着手。知人の「消費者の笑顔が見える農業は、やりがいが違うよ」という言葉が林衛さんの背中を押しました。通常、こんにゃく製品は芋を乾燥させて粉砕した精粉から作られますが、それではこんにゃく芋の持ち味が表現できないと、昔ながらのやり方に回帰。どこよりもおいしいものをと考えた結果、生ずり製法に行き着きました。こんにゃく芋を生のまますり下ろしてアクを投入し、丹念に「バタ練り」します。プロペラのような羽がついた機械でバタバタと音を立てて練ることで、粘りとつややかな光沢が生まれるのです。手でちぎろうとすると、逆らうようなヒキの強さ。田楽でいただいたところ、香りの高さとモッチリ感に驚きました。アクが少ないのでサッと洗うだけで刺身でも食べられます。味染みもよく、煮物をする前に空煎りする必要もありません。
有機農法で自家栽培したこんにゃく芋を100%使い、生ずり製法で作られるこんにゃくは、6次産業化の先進モデルとして県内外から注目されるようになりました。その評判は官公庁の目にも止まり、3年連続(平成20〜22年)で農林水産大臣賞を受賞。平成23年には最も栄誉のある天皇杯も受賞しました。こんにゃく製造の頂点に立ったと言っても過言ではありませんが、林衛さんは通過点ぐらいにしか思っていない様子。「そもそも、たくさん作ろうとは思ってないから、土壌や芋に無理させず育てています。こんにゃく作りも昔ながらのやり方が理にかなっていて、何よりおいしいからね」と林衛さん。つかの間の休憩時間、ベテランの女性スタッフと楽しげに会話を交わしながら、おいしそうにこんにゃくをつつく様子は、こんにゃく愛好家そのものの表情でした。
こんにゃく芋を生のままミキサーにかけて少し休ませ、アクを入れてバタ練り。よく練ることで粘りと光沢が生まれる。成形した後は80℃の消石灰水に泳がせてアク抜きし、一晩ひたせばできあがり。
加工場横の休憩室には、林衛さんの奥様が煮上げた群馬名物の花豆やお茶菓子に混じって、刺身こんにゃく2種が鎮座。林衛さんもスタッフの皆さんも心からこのこんにゃくを愛している様子。
※掲載の内容は、2015年6月現在のものです。