きっちんぷらす
スチコンレシピ 1233 recipe

情熱が守る、本物の味「生しいたけ」

秋は、木から栄養をたっぷりもらった
香り高いしいたけを楽しめる季節。
今回は、父の思いを受け継ぎ、原木による栽培を守り続ける
「しいたけブラザーズ」を岐阜県・川辺町に訪ねました。

2つのしいたけ

 皆さんは栽培方法の違いで2種類のしいたけがあることをご存知ですか?現在、主流となっているのは菌床しいたけ。おがくずに水や栄養剤を混ぜてブロック状にした人工の培地で育てられたものです。この栽培方法は非常に効率がよく、収穫量も安定しており、現在市場に出回るしいたけの9割がこの菌床栽培や中国産といわれています。一方、原木しいたけは、コナラやクヌギなどの原木にしいたけ菌を植えて育てられたもの。原木栽培ならではの木の薫り、味わいと食感が特長ですが、菌床栽培の3倍の時間と労力とコストがかかるとされ、また栽培農家も減っているため、貴重なしいたけといえるのです。
「しいたけブラザーズ」では三人の兄弟が中心となって、原木栽培でしいたけを作り続けています。長男の尚人さんはJA、次男の千洋さんはアパレルメーカー、三男の泰弘さんは機械メーカー、とそれぞれが会社勤めをやめて家業を継ぐに至ったのは、原木しいたけにかける父の思いに共感したからでした。


原木しいたけ。いしづきと呼ばれる軸の部分が太くしっかりしている


しいたけブラザーズ。左から長男・尚人さん、次男・千洋さん、三男・泰弘さん



木から生まれる、だから『木の子』

 「有限会社しいたけブラザーズ」を立ち上げて6年。年間5万本の原木に植菌を行い、ほだ木づくり、しいたけの発生から収穫というサイクルでしいたけを育てています。しいたけブラザーズでは、質の高いしいたけを作るために1本10キロ以上という原木を毎日1人あたり2,000〜3,000本も動かすという途方もない作業量をこなします。さらに収穫は多い時期ともなると6時間おきに行わなければならず、寝る暇もないほど。原木栽培の農家が減り続けている理由のひとつは、こうした重労働にあります。高齢により栽培を続けられない農家が増えているのです。菌床しいたけや中国産に押されて、減り続ける原木しいたけ。「原木から育つからこそ『木の子』なんだ」。長年、原木栽培にこだわってきた父の言葉、本物を残していきたいという情熱、残していかなければならないという使命感。それがしいたけブラザーズの原動力となっているのです。
しいたけ栽培のカギとなるのは、温度と湿度。寒暖差が大きい程、厚みのあるしいたけが育ちます。しいたけブラザーズは標高の違う2つの農場でそれぞれの気候をいかして栽培を行っています。さらには、しいたけの発生に影響を与える雷や長雨といった自然環境を再現するといった工夫も取り入れています。
しいたけブラザーズのこだわりは、原木栽培だけではありません。原木栽培でも収穫量を安定させるために増収剤や殺菌剤などの農薬を使用しているところが多い中、完全無農薬栽培でのしいたけ作りを行っています。温度・湿度のこまめな管理、それに加えて雑菌や害虫の予防など、四六時中、気を配り手をかけることが必要になります。だからこそ、木の状態を常に知るために、作業時も必ず木は素手で触り、雑菌に冒されていないか、湿度は適切かなどを自分たちの体で感じ取るということを欠かさないのです。


ほだ木づくり。しいたけ菌を均一に行き渡らせるために天地返しと呼ばれる作業を行う、長男の尚人さん


発生の準備。コンクリートの壁に打ちつけた後、冷水に沈められるほだ木。雷と長雨を再現し、しいたけの発生を促す


発生舎。成長具合の確認と収穫がしやすいように、ほだ木は三角に組みあげられている



原木しいたけへの思い

 原木栽培は重労働であるだけでなく、天候や温度といった自然環境に左右され、収穫が安定しません。さらにしいたけブラザーズは無農薬栽培という大きなリスクも背負っています。なぜ、そこまで無農薬での原木栽培にこだわるのか?その理由は、自分の子どもたちに食べさせたいものは原木か菌床かと考えると原木、同じように無農薬にこだわるのは、子どもに食べさせたくないものを作ったり売ったりはしたくないという実に明快なものでした。
しいたけブラザーズのしいたけの流通ルートは、直売所やインターネットのほか、スーパーやホテル、飲食店などとの直接取引のみ。卸売市場では流通していません。そのきっかけとなったのは、スーパーでの試食販売でした。自分たちのしいたけのおいしさをわかってもらうために始めた試食販売で、直接お客さまの反応がわかる喜びを知り、またそれが評判となり、今のかたちにつながっていったのです。食べて喜んでくれる人がいるから本物の味を守ることができる。それがわかっているからこそ、常にお客さまの方を向き続け、地道に本物を作り続けるしいたけブラザーズ。多くの人々に支持されている理由は、そこにあるような気がします。
しいたけブラザーズでは、本物のしいたけを作り続けるだけでなく、しいたけの原木となるコナラやクヌギを育てて里山を守る活動や後継者の育成などにも現在、取り組んでいます。父の原木しいたけへの思いをしっかりと受け継ぎ、それを未来へとつなげていく活動を進めているのです。


しいたけブラザーズの直売所には取材中も多くのお客さまが訪れていた。生しいたけはもちろん、干ししいたけや無添加の自家製加工品も人気だ


しいたけブラザーズのしいたけ。パッケージには三人の写真。社名の「しいたけブラザーズ」はお客さまのなにげないひとことに由来している



有限会社しいたけブラザーズ 代表取締役 横田 千洋さん

菌床栽培に比べて、効率が悪く肉体的な負担も非常に大きいため、原木栽培のしいたけ農家は年々減っています。自然が相手なので思うようにはいかないことも多く苦労は絶えませんが、買った人に喜んでもらえるもの、それが自分たちの作るべきものだと考え、これからも提供し続けていきたいです。おいしいしいたけはもちろん、そんな私たちの思いや情熱も一緒にお届けできればと思っています。

[取材協力]
有限会社しいたけブラザーズ 岐阜県加茂郡川辺町鹿塩983-1 TEL:0574-53-4663
http://shiitakebrothers.com/

※掲載の内容は、2009年9月現在のものです。

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